MRIの原理教室②:プロトンの挙動を徹底解説
MRI(磁気共鳴画像法)は、私たちの身体の内部を詳細に映し出す高度な技術です
今回の記事では、MRIの画像化に重要な役割を果たすプロトン(1H)の動きに焦点を当て、その基本原理をわかりやすく解説します
プロトンの挙動とMRIの関係を理解することで、MRIの仕組みがさらに明らかになります
専門用語も丁寧に説明しますので、初めての方でも安心して読み進めてください
前回のおさらい
MRIは何を観測しているか覚えていますか?
答えは、水と脂肪の1Hでしたね
体内の1H原子核は水、脂肪、タンパク質、炭水化物、ビタミンなどに含まれていますが、以下の理由から検出できるのは水と脂肪の1Hだけです
- 量が少ないため、信号が小さく雑音に埋もれてしまう
- T2(横緩和時間)が短いため、受信時には雑音以下に減衰してしまう
プロトンの動き
私たちの体内にあるプロトン(1H)は、磁場の中と外では異なる動きをします
これは、原子の基本構造である、正の電荷を持つ原子核と負の電荷を持つ電子によるものです
プロトンは電荷を持ち、自転(スピン)しています
つまり、電荷が回転することで円電流が発生し、これが棒磁石と同等の磁場を形成します
磁荷はSとNが両端に出現し、磁性を示す物理量は電荷の強さとNとS間の距離の積である磁気モーメントです
MRIは磁場を使い人体を画像化します
MRIでプロトンを考えるときは、この磁気モーメントで考えます
磁場の外でのプロトンの動き
以下の図をご覧ください
磁場の外にいるプロトンはランダムな動きをしています
この状態では磁気モーメントの向きがランダムで相殺されているため、信号は出ません
磁場の中でのプロトンの動き
次に、磁場内部での動きを見ていきましょう
まず、新しい用語の説明です。MRIを学習するときにB0やB1という表現が出てきます
- B0:静磁場のことで、MRI本体が常に作り出している一番大きな磁場(1.5Tや3Tなど)。
- B1:RFパルス(高周波パルス、電磁波)のことで、プロトンを励起して信号を出すためのパルス。
MRIの中にはB0という磁場が形成されています
磁場の中に入ると体内の1Hは磁場の方向を向くか、反対方向を向くかの2通りになります
磁場の外ではランダムだったプロトンの向きが、磁場内部では一定の方向を向くようになり、磁気モーメントは完全には相殺されません
磁場内でのプロトンの向き
プロトンは磁場(B0)方向(+Z軸)から55°と125°のどちらか一方を向いています
完全に磁場と同方向ではなく、角度がついており、プロトン自体も回転しています
この運動を歳差運動と言い、ラーモア周波数で表されます
ラーモア周波数はMRIの基礎となる式です
磁束密度(磁場強度:T)を上げると角周波数も比例して上がります
つまり、磁場の強さが高くなると、プロトンの回転速度も上がるということです
1.5Tよりも3Tの方がプロトンの回転は2倍です
2方向を向いたプロトンの挙動
磁場の外ではランダムな向きだったプロトンが、磁場内部では55°と125°のどちらかを向きます
ここで、55°を向いているプロトンをα群、125°を向いているプロトンをβ群と呼びます
α群の方が少しだけ多く存在しており、この差分がMRI信号に反映されます。
この磁場にさらされただけの状態を熱平衡状態と言い、最も安定しています
ここからRF波(電磁波)で高エネルギー状態にすることを励起と言い、励起することで初めてMR信号が出てきます
巨視的磁化とは
静磁場内の熱平衡状態のプロトンは55°または125°で歳差運動を行なっています
MRIでは、この差分を観察します
ただし、この時のプロトンは、全て同じ角周波数で回転はしているものの、向きはバラバラです。
このとき重要なのは、個々のプロトンを見るのではなく、複数のプロトンを集合体として捉え、これを巨視的磁化と言います
巨視的磁化(M0)は熱平衡状態ではB0(+Z)方向を向いています
今後、プロトンの挙動を説明するときは、巨視的磁化で説明していると捉えてください。
まとめ
- 磁場の外のプロトンはランダムな向きで磁気モーメントは相殺されている。
- 磁場内部のプロトンは、磁場(B0)方向(+Z軸)から55°と125°のどちらか一方を向いている。
- α群(55°を向いているプロトン)とβ群(125°を向いているプロトン)では、α群の方が少しだけ多く存在していて、両者の差分がMRI信号に反映される。
- 複数のプロトンを1つのベクトルとして捉えることを巨視的磁化と言う。巨視的磁化(M0)は熱平衡状態ではB0(+Z)方向を向いている。
今回はプロトンの動きに焦点を当てました
抽象的でわかりにくいかもしれませんが、まとめの部分をしっかり理解しておきましょう
それではまた次回お会いしましょう!
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