今回は前回からの続き『緩和パート2』です。
それでは始めましょう!
前回のおさらい
励起
MRI装置は大きな磁場を保っていて、体内のプロトンは大きな磁場の中に埋もれていました。プロトンを画像化するには、静磁場(z軸)から角度をとる必要があります。
そこで使用するのが、体内のプロトンと同じ周波数のRFでした。(共鳴周波数)
熱平衡状態からRFを用いて高エネルギー状態にすることを励起といいます。
共鳴周波数を導き出す式は、
そして、RF波により傾く角度をフリップ角といい、次の式で表します。
緩和
RFパルスをOFFにすると、励起状態からゆっくりと熱平衡状態に戻ります。
この過程を磁気緩和(緩和)と言います。
実際はRFパルスを照射中にも緩和は始まっていますが、RFパルスはとても短いので、OFFにしてから緩和は始まると考えて大丈夫です。
励起中の磁気モーメントの様子
ここからは少しだけ凝った話をします。
なんとなくでも理解できたら大丈夫ですので、肩の力を抜いて学習しましょう!
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静磁場中に置かれた磁気モーメントは全て同じ角周波数で歳差運動をしているが、それぞれ向きが違いました。
それらを合成すると1つのベクトルとして考えることができ、巨視的磁化といいます。
この状態が最も安定しており、縦緩和の最終地点となります。
90°パルスで励起をすると、55°(α群)のスピンが減り、125°(β群)のスピンが増えます。
それと同時にバラバラな向きで歳差運動していたスピンの位相が揃います。
巨視的磁化で考えると、縦の成分はだんだんと小さくなっていきます。
そしてα群とβ群の磁気モーメントの数が同数になると、縦の巨視的磁化は消滅します。
次は、横の成分を見ていきましょう。
縦の成分が減少していくと同時に、横の成分が増えていきます。
90°パルスは、静磁場(z軸)から90°傾けるためのパルスなので横方向に巨視的磁化は倒れます。そしてスピン同士の位相は揃っていきます。
緩和中の磁気モーメントの様子
励起をして縦磁化成分が消失し、横磁化成分ができた後は以下のような行動を示します。
この図は位相の移り変わりを表したものです。
RFパルスがOFFになると同時に、揃っていた磁気モーメントの位相が分散していきます。
分散していくということは、横磁化成分がだんだんと減少することを示します。
そして完全に位相が分散すると、横磁化が消失します。
今回の説明では全て縦磁化も横磁化も止まっているようになっていますが、実際には共鳴周波数で回転をしながらこの事象が起きています。
少し付け加えながら、まとめましょう。
RFパルスを照射すると磁気モーメントの位相が揃い、巨視的磁化が倒れます。
つまり、縦磁化が消失し、横磁化が現れます。
RFパルスをOFFにすると、横磁化が回転しながら緩和をしていきます。
揃っていた位相が分散していきます。この回転する横磁化が信号を出しています。そして、横磁化の信号をキャッチするのが受信コイルです。
(横磁化の信号変化のみがMR信号として受信されます)
T1緩和(縦緩和)
RFパルスを照射すると巨視的磁化(M0)は、
縦磁化成分が減少もしくは0になり、横磁化成分が出現します。
90°パルスでは照射直後は縦磁化は0です。
T1緩和は縦磁化が時間とともに指数関数的に回復していく過程で、T1値は元の値の63.2%に戻るまでの時間です。
T1が大きいとは「ゆっくり」と回復をしていきます。
T2緩和(横緩和)
横磁化は90°パルスの時が最大で、180°パルスの時は0となります。
T2緩和は横磁化が時間とともに指数関数的に減衰していく過程で、T2値は信号の最大値から36.8%に減衰する時間です。
横緩和は横磁化の減衰過程を見ています。
T2が大きいと「ゆっくり」と減衰していきます。
T1緩和・T2緩和の始まりと終わり
T1緩和とT2緩和は同時に始まりますが、別々に終わります。
基本的にはT2緩和の方がT1緩和よりも早期に終了しますが、純水のみが同時に終了します。なので、緩和時間はT1≥T2となります。
緩和の正体に迫る
今までずっと緩和を見ていましたが、緩和をするメカニズムには触れていませんでした。
緩和をするメカニズムは『双極子間相互作用(DDI)』です。
詳しく見ていきましょう。
双極子間相互作用(DDI)
プロトンは電荷と同時に磁荷を持っていると、お話したのを覚えていますか?
(MRI原理教室②を参考)
磁荷は単独で存在することは無く、必ずSとNが両端に出現し、
磁気モーメントという物理量でした。
そしてMRIで観察しているのは水分子でしたね。
水分子はH2Oで表されます。2つの水素原子核をa、bとします。
X時の時の水素原子に注目してださい。水素原子核bはaの磁気モーメントから、B0(+Z)方向に余計に受けています。磁場はB0より少しだけ増えます。
しかし、Y時の時には逆に水素原子核bはaから-B0(-Z)方向の磁場を受けていて、磁場はB0より少しだけ減ります。
つまりa、bはその時々により磁場が変化していきます。
これを双極子間相互作用(DDI)といい、局所的に発生する磁場を局所揺動磁場と言います。
これが緩和の主な理由となります。
磁場が変化するということは、各々の角周波数が変化して位相が分散するということです。
T2緩和の方がT1緩和よりも迅速な理由
T1、T2共に、緩和の主たるメカニズムはDDIでした。
RFパルスを受けると、磁気モーメントはエネルギー準位の高い方に移動します。
つまりエネルギーを与えられた状態です。
縦緩和する際には、このエネルギーを自分たち以外の分子に渡さないといけません。
そしてそれは同じ周波数同士が最も効率が良いと言われています。
横緩和は、同じ核磁気モーメント同士や異なった磁気モーメントとのDDIにより緩和をするが、縦緩和は異なった磁気モーメントで尚且つ同じ周波数で運動している分子のみとなります。
つまり緩和するための手段が横緩和の方が多いのです。
これがT2緩和がT1緩和よりも迅速な理由です。
T2とT2*
T2は同じ核磁気モーメント同士や異なった磁気モーメントとのDDIにより緩和をします。
しかし緩和はこれだけではありません。
MRIは人工物であり、磁場の均一度も完璧ではありません。
つまりB0の不均一性があります。
不均一ということは、場所により共鳴周波数が異なり位相がズレる。
→緩和が促進されるとなります。
また、仮にMRIが完璧な磁場均一性を持っていたとしても、人体が入ることで磁場は乱れます。
人体は様々な磁化率を持っています。不均一ということは、共鳴周波数がズレて位相が分散し、緩和が促進されます。
このDDI以外の磁場の不均一性などの様々な外部的要因を含めた横緩和をT2*と言います。
つまり、緩和時間はT2>T2*となります。
全てを合わせると、T1≥T2>T2*となります。
まとめ
- RFパルスを照射すると磁気モーメントの位相が揃い、巨視的磁化が倒れる。→縦磁化が消失し、横磁化が現れる
- RFパルスをOFFにすると、横磁化が回転しながら緩和をする。
揃っていた位相が分散し、この回転する横磁化が信号を出し受信コイルでキャッチする - T1値は元の値の63.2%に戻るまでの時間
- T2値は信号の最大値から36.8%に減衰する時間
- T1緩和とT2緩和は同時に始まりますが、別々に終わる
- 緩和の正体はDDI
- 緩和時間はT1≥T2>T2*
以上参考になれば幸いです。
それではまた!!